2006年5月24日 (水)

79年のレジーム転換

John B. Taylor、“The International Implications of October 1979:Toward a Long Boom on a Global Scale(pdf)”

1979年10月6日のFOMCの決定―ヴォルカーが主導した―はその後の“Great Moderation”(Ben Bernanke、“The Great Moderation” ならびに“The Benefits of Price Stability”参照)あるいは“Long Boom”(John B. Taylor、“Monetary Policy and Long Boom(pdf)”参照)をもたらすことになる一種のレジーム転換として位置づけることができる。物価安定への力強いコミット―ディスインフレ過程における痛み(から生じるFRB執行部への高まる不満)にもめげることなくインフレ退治に不屈の精神をしめしたヴォルカーら執行部―、FFレート操作における“greater than one” principleの導入はインフレ期待の低位安定化に通ずることによって“Great Moderation”あるいは“Long Boom”の到来を用意した。ヴォルカーの遺産はアメリカ一国だけにとどまらず、世界中の中央銀行の遺産ともなり、その結果が世界規模での“Great Moderation”あるいは“Long Boom”なのである(John B. Taylor、“Lessons Learned from the Implementation of Inflation Targeting(pdf)”参照)。

時間があればもう少し肉付けするかも知れぬ。

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2006年4月19日 (水)

長期金利と金融政策

バーナンキFRB議長新スピーチの概要。

Reflections on the Yield Curve and Monetary Policy(Before the Economic Club of New York,March 20, 2006 )http://www.federalreserve.gov/BoardDocs/speeches/2006/20060320/default.htm

FRBによる今般の(2004年6月末から始まる)金融引き締め局面においては4つの特徴的な動き(現象)が観察される。

1.市場が予想しているよりも金融引き締め(FFターゲットレートの引き上げ)が開始されるタイミングが遅かった(FFターゲットレートが据え置かれる期間が予想以上に長かった);アメリカ経済がデフレに陥る危険を予防するための措置として理解できる(2003年中に経験したディスインフレが行き過ぎる(=デフレに転化する)ことを懸念)→高すぎるインフレと同様に低すぎるインフレを避けることに全力を尽くすのがFRBの使命である

2.FRBの将来の政策スタンスを(FOMC後の声明を通じて)前もって明らかにすることにより市場の動揺や過剰反応を防ぐことに成功した;市場との透明性あるコミュニケーションが金融資産の価格(=株価、為替、長期金利etc)変動を最小化することを通じて金融政策の有効性を高めることにつながった

3.漸進主義(gradualism)的な金融引締め(http://www.federalreserve.gov/FOMC/fundsrate.htmhttp://research.stlouisfed.org/publications/mt/page9.pdf(pdf)を参照);FFターゲットレートを漸進的に、ゆっくりとしたペースで徐々に引き上げることにより、将来の金融政策の予測可能性が増した(→結果として資産価格の変動の平準化につながった)。また、FRBは経済の状況を見極める時間的余裕を得ることができ、状況に応じた政策調整を行うことが可能となった←インフレ期待が低位安定していたからこそ(FRBによるlow and stable inflationへのコミットが信認を得ていたからこそ)可能となった手法ではある

4.金融引締め局面において長期金利がそれほどの上昇を見せなかった(=イールドカーブのフラット化;http://www.newyorkfed.org/research/directors_charts/i-page19.pdf(pdf)などを参照);10年物の長期国債金利はFFターゲット金利とほとんど変わらない水準にある

<長期金利は何故それほど上昇しなかったのか?>        長期利子率が将来の予想短期(=1年満期)利子率の加重平均とタームプレミアムの合計として求められる(=利子率の期間構造に関する期待仮説にリスクプレミアム(ないし流動性プレミアム)の存在を考慮に入れたもの)と考えるならば、FFレートや2、3年先の(満期一年物の)フォワードレートが上昇する一方で長期金利(10年物国債金利)がほとんど変動していない(=decline in far-forward rates)ということは、

(a)将来的に短期利子率が低下すると予想されている;dependent on the economic outlook

(b)タームプレミアムが低下している;independent of the economic outlook

のどちらか、または双方の要因が働いていることになる。

(b)を支持する見解としては、

①1980年代の中頃以降、マクロ経済の変動(実質GDP成長率やインフレ率の動き)が安定化した(緩慢なものとなった)ため(マクロ経済の安定化には低インフレ(ならびにインフレ期待の安定化)を実現した金融政策も一役買っているかもしれない);the fall in macroeconomic volatility, if investors have come to expect this past performance to continue, they might believe that less compensation for risk--and thus a lower term premium--is required to justify holding longer-term bonds

②各国政府(特にアジア)が積極的に外為市場に介入したため(バーナンキとしては、短期的な効果はともかく長期利子率を長期的にも低下させた要因として考えうるかどうか疑問である(+長期国債と民間発行の(満期を同じくする)債券間の利回りのスプレッドが拡大していないこと、アメリカだけではなく他国の長期利子率も低下傾向を示していること、からしても疑問である)との立場);foreign official institutions, primarily central banks, have invested the bulk of their greatly expanded dollar holdings in U.S. Treasuries and closely substitutable securities, and these demands by the official sector have put downward pressure on yields.

③年金基金の会計基準や運営方針の変化(年金債務と資産のデュレーションをマッチングさせようとする動き)の結果として長期債への需要が高まったため(ニッセイ基礎研究所;「年金ストラテジー」(http://www.nli-research.co.jp/doc/str0602c.pdf(pdf)やhttp://www.nli-research.co.jp/doc/str0509b.pdf(pdf)等々)などを参照のこと。この話題を包括的に扱ったペーパーや本などご存知ありませんでしょうか?);Changes in the management of and accounting for pension funds are a third possible source of a declining term premium. Reforms proposed in the United States, Europe, and elsewhere are widely expected to encourage pension funds to be more fully funded and to take steps to better match the duration of their assets and liabilities. Together with the increased need of aging populations in the industrial countries to prepare for retirement, these changes may have increased the demand for longer-maturity securities.

④長期債への需要増加のペースに比べて長期債が発行されるペースが鈍かったため;as investors' demands for long-duration securities may have increased over the past few years, the supply of such securities seems not to have kept pace.

近時の長期金利の動きを説明する主要因が(a)であるのか(b)であるのかは、今後の金融政策の方向性に対するインプリケーションの違いを生む。(a)=投資家の将来の景気動向に対する弱気な態度の反映(investor expectations of future economic weakness)の結果だとすると(←将来的に景気が後退し、それに対して金融緩和政策がとられる(=FFレートが引き下げられる)と予想されるため)、長期金利が歴史的に見て低い水準で安定している理由が(a)の反映であるならば金融は現状よりも緩和すべきであることになるし(if spending depends on long-term interest rates, special factors that lower the spread between short-term and long-term rates will stimulate aggregate demand. Thus, when the term premium declines, a higher short-term rate is required to obtain the long-term rate and the overall mix of financial conditions consistent with maximum sustainable employment and stable prices)、(b)の反映であるならば金融は現状よりも引締め気味に運営されるべきとなる(バーナンキは長期金利の動きを説明する代替的な議論として自然利子率の低下を主張する見解やグローバル貯蓄過剰論(http://www.federalreserve.gov/boarddocs/speeches/2005/20050414/default.htm)も挙げている)。長期金利の推移に関する解釈の違いは時に正反対の政策対応を要請することになるのである(ちなみにバーナンキ自身は(b)が説明要因としてもっともらしいのではないかとの認識。ただし、長期金利は政策判断を行ううえであくまでも一つの指標にしか過ぎず、長期金利の動きのみから即座に金融政策へのインプリケーションを引き出すことは拙速にすぎるとの考え)。

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ケチャップ皇帝の初仕事

2月15日の水曜日、ケチャップ皇帝ことベン・バーナンキさん(52歳)が米下院金融サービス委員会において証言を行い、FRB議長としての初仕事を難なくやり遂げたとのことです。

Testimony of Chairman Ben S. Bernanke(Semiannual Monetary Policy Report to the Congress Before the Committee on Financial Services, U.S. House of Representatives) http://www.federalreserve.gov/boarddocs/hh/2006/february/testimony.htm

Inflation prospects are important, not just because price stability is in itself desirable and part of the Federal Reserve's mandate from the Congress, but also because price stability is essential for strong and stable growth of output and employment. Stable prices promote long-term economic growth by allowing households and firms to make economic decisions and undertake productive activities with fewer concerns about large or unanticipated changes in the price level and their attendant financial consequences. Experience shows that low and stable inflation and inflation expectations are also associated with greater short-term stability in output and employment, perhaps in part because they give the central bank greater latitude to counter transitory disturbances to the economy.

今回のテスティモニーで一番興味を惹かれた箇所(2005年度のアメリカ経済の回顧や今後の展望やらについてのバーナンキ証言は・・・きっとどなたか(私なんかよりもずっと適任でらっしゃる方)がまとめてくださることでしょう)。物価の安定(インフレ率の低位安定)を追求すべきである理由は、それが長期的な経済成長にとって好ましい要素である(→物価が安定することで、経済的な意思決定に際して将来物価の予測や物価変動による予想せざる富の移転等に関して頭を悩ます(余計な労力を費やす)必要がなくなる)からというだけではない。物価の安定(とその結果としての穏やかなインフレ期待)は、中央銀行がcounter-cyclicalな金融政策を発動する余地を確保することによってヨリ確実な(短期的な)景気安定化のための環境を用意することになる(Econbrowserでのハミルトンの説明がこの発言の意味を理解するのに参考になるであろう。“one of the reasons we want to keep inflation low is to preserve the flexibility to counter an output slowdown with a monetary expansion if needed”。景気後退局面において(それ以前の政策運営の結果として)インフレ期待が低位で安定していれば、金融緩和によってインフレ率上昇という代価をそれほど払うことなしに景気回復を実現できる(インフレ率が低けれ低いほど(0%以下(CPIの上方バイアスを無視した場合))、それだけ発動しうる金融緩和の規模に余裕がある、ってことかも)。・・・この解釈で間違いないですよね?)。

バーナンキがFRB理事時代に行ったスピーチ“A Perspective on Inflation Targeting”(『リフレと金融政策』所収)も参照のこと(追記;The Benefits of Price Stabilityも参照すべし)。

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世界経済の新皇帝

一つの時代=「the Greenspan era」(A.Blinder, R.Reis、“Understanding Greenspan Standard(pdf)”)が終焉しようとしている。1987年以来約18年間の長きにわたり(この間米国大統領の座はパパブッシュ→クリントン→子ブッシュ、の3人が務めあげている)、FRB議長としてアメリカ経済の「繁栄の90年代」(ないしは「素晴らしい10年」 “Fabulous Decade”;A.ブラインダー/J.イェレン著『良い政策 悪い政策-1990年代アメリカの教訓』)を演出したグリーンスパンが明日2月1日をもって議長職を辞するのである。「マエストロ(名指揮者)」グリーンスパンの後を継ぎ、FRB議長として、また「世界経済の新皇帝」として新たな時代の幕を開くその男の名はベン・バーナンキ Ben Bernanke。マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得後、スタンフォード大学、プリンストン大学等で教鞭をとり、2002年にFRB理事、そして2005年には大統領経済諮問委員会(CEA)委員長に就任。アカデミックな世界だけでなく政策の現場でも精力的な活躍を続ける世界を代表する経済学者である。

406213260501 バーナンキとは一体何者なのか? 彼は何を考え、我々をどこへ連れて行こうとしているのか? 果たして彼に「世界経済の新皇帝」としての任が務まるのであろうか? これらの疑問に答えるべく、「バーナンキ経済学」の真髄を解き明かすために緊急出版(1カ月半(!!)という短時日で脱稿)されたのが田中秀臣著『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』である。

バーナンキといえば「日銀はケチャップでも買え!」、「日銀幹部は一人を除いてジャンクだ!」という刺激的(挑発的?)な発言でよく知られているが、本書では経済学の初歩的な議論からはじめて「バーナンキ経済学」の二本柱「大恐慌研究」/「インフレターゲット研究」の内容を懇切丁寧に解説することで、これらの発言の背後にあるバーナンキの思考枠組みを明快に浮かび上がらせていく。何故デフレが生じるのか? 中央銀行がインフレターゲットを設定することで期待される効果は何なのか? 日本経済がデフレ不況に陥ったのはどういった理由からであり、またこの停滞状況から脱するためにはいかなる政策を処方すべきであるのか? バーナンキの足取りを辿りながら、著者はこれらの問いに次々と説得的な回答を寄せていく。バーナンキを語り、理解することは、経済学を、そして現実の経済問題を語り、理解することでもあるのだ、ということを読後しみじみと感じ入った次第である。

バーナンキの研究活動―特に大恐慌研究・インフレターゲット研究―において一貫していることは、同じ過ちを繰り返さないためにも歴史から真摯に学びとる態度の重要性への認識である。大恐慌研究を通じてデフレの弊害・稚拙な金融政策の有害性を学んだ結果が日本銀行の政策運営に対する(過去の教訓を生かしていないものへの)激烈な批判へとつながっているわけであり、またインフレターゲットを設定することの必要性を認識するにいたったのも1970年代のGreat Inflationの経験からの一つの帰結である(「バーナンキは、この70年代のインフレ予想形成の失敗がいかに社会的コスト(失業)を生み出したかを説明し、今後このような失敗をしないためにも、経済主体の予想形成が金融政策の欠かせない要素になる―と力説している」(p182))。 バーナンキはその学究生活を通じて以下のグリーンスパンの言葉を長年にわたり実践してきたわけであり、前任者からFRB議長という(名目的な)ポストばかりではなく、その精神(スピリット)をもしっかと引き継いでいるわけである。

History teaches us that no matter how well intentioned economic policies and decisions may be, policymakers never can possess enough knowledge of the complexities of the economy nor sufficiently foresee changes in the economic environment to avoid error. But history can and does provide examples that can help guide policymakers away from repeating the worst mistakes of the past. Indeed, only through an understanding of historical precedents can we continue to improve our policies.(At a book reception for the publication of volume I of Allan Meltzer's History of the Federal Reserve

歴史をひもとけばわかるように、いかに政策や決定が善意に基づいていたとしても、政策担当者たちが経済の複雑さについて十分な知識を保有することはないし、経済の変化について十分に予見して誤りを避けることができるというわけでもない。けれども政策担当者たちは、歴史を学ぶことで、「過去の最悪の過ちを繰り返す」愚行を避ける手がかりを得ることができる。実際、歴史的先例に学んでこそはじめて、わたしたちは自分たちの政策を改善し続けることができるのだ(若田部昌澄著『経済学者たちの闘い』、p286より)

「おわりに」において著者は次のように語っている。

私のデフレ研究は、バーナンキの論文を最初に読んだ15年前に始まり、そしていま、本書を書き終えることで一山越えたように思える。15年にわたってバーナンキ経済学への関心を維持してきたわけだが、その理由の一つは、不幸なことだが日本がその間ずっと(そしていまもなお)大停滞を継続してきたからにほかならない。その意味で、これからも日本経済はまだまだ彼から豊かなアドバイスを汲み取ることができるだろう。(p213)

「失われた15年」なしには本書と出会う機会はもしかしたらなかったのかもしれない。その意味では「失われた15年」にも効用が存在したといえるのかもしれない。「失われた15年」が与えてくれたプレゼント。拍手をもって迎えてよいものか、まったくもって複雑な心境ではある。

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4つの失策

Ben S. Bernanke,“Money, Gold, and the Great Depression”の要点メモ。

To support their view that monetary forces caused the Great Depression, Friedman and Schwartz revisited the historical record and identified a series of errors--errors of both commission and omission--made by the Federal Reserve in the late 1920s and early 1930s. According to Friedman and Schwartz, each of these policy mistakes led to an undesirable tightening of monetary policy, as reflected in sharp declines in the money supply.・・・Friedman and Schwartz emphasized at least four major errors by U.S. monetary policymakers.

Great Depressionの原因ないしは促進要因となったFRBによる4つの失策(=過度の金融引締め)をフリードマン=シュワルツ(1963)に依拠しつつ概観。

政策の失敗<その1>;1928年の春頃から1929年の10月(暗黒の木曜日)まで続いた株投機抑制を目的とした(インフレの兆候が一切見られない状況での)金融引締め

The Fed's first grave mistake, in their view, was the tightening of monetary policy that began in the spring of 1928 and continued until the stock market crash of October 1929. ・・・Why then did the Federal Reserve raise interest rates in 1928? The principal reason was the Fed's ongoing concern about speculation on Wall Street. Fed policymakers drew a sharp distinction between "productive" (that is, good) and "speculative" (bad) uses of credit, and they were concerned that bank lending to brokers and investors was fueling a speculative wave in the stock market.

銀行貸付はリアル・ビルズ(=商工業者がビジネス(実業)のために振り出す商業手形)の割引の形で実行されるべきであり、連銀貸出は株式投資などの投機目的の資金需要に向けられるべきではない(=リアル・ビルズ・ドクトリン)。にもかかわらず、貸付資金の利用目的を精査することなしに貸出を行ったがために株式投機による資産バブルを招いてしまった。「株式投機というアメリカ的な勤勉の道徳とは最も離れた、罪深い行い・・・の贖罪のためには、金利を引き上げて罪深い行いの者たちを滅ぼさなければならない。その過程で、たとえ善良な農民や商工業者が傷ついても、それは正義の戦いのための犠牲なのだから仕方がない」(竹森俊平“世界デフレは三度来たる”、『月刊現代』2004年9月号、p311;竹森先生はバブル潰しを目的とした連銀によるこの金利引き上げの判断を「清算主義というポピュリズム」、「「因果応報」の観念にとりつかれた一種の宗教思想」と断じておられます)。株価バブルを抑えるために(=バブル潰しを目的に)FRBは売りオペと金利(公定歩合)引き上げによる引締め政策に乗り出すことになる(一般的には1929年10月24日のウォールストリートの株価暴落が大恐慌の原因とみなされているが、この株価暴落自体が1928年に始まるFRBによる金融引締めの結果であり、Great Depressionの種は“暗黒の木曜日”以前に既にまかれていたことになる。 The slowdown in economic activity, together with high interest rates, was in all likelihood the most important source of the stock market crash that followed in October.  In other words, the market crash, rather than being the cause of the Depression, as popular legend has it, was in fact largely the result of an economic slowdown and the inappropriate monetary policies that preceded it)。(連銀の政策委員すべてがこの処置に同意していたわけではない点は注記しておこう。引締め政策に明確な反対の意を示した委員が存在した(「株式市場活動を制限する目的で割引率を引き上げることは、連邦準備局の権限内の他の施策がその目的を達成するのに失敗したときにのみ行われるべきである。銀行信用がブローカーズ・ローンへの投資に間接的に用いられるからといって、農業やビジネスを罰することには賛成できない」「商業やビジネスをたすけるために割引率を固定することは、株式取引所の売買以外のすべての種類のビジネスに適用される。しかも、連邦準備当局に入ってくるビジネス・レポートは株式取引所をのぞいては、すべてのビジネスは抑制ではなく刺激を必要としていることを正しく示唆している」(秋元英一『世界大恐慌』p53~54より引用))。

政策の失敗<その2>;1931年9、10月における投機アタックに際しての(金流出の予防あるいは平価の維持を目的とした)金利引き上げ

The second monetary policy action identified by Friedman and Schwartz occurred in September and October of 1931. ・・・As with any system of fixed exchange rates, the gold standard was subject to speculative attack if investors doubted the ability of a country to maintain the value of its currency at the legally specified parity.・・・With the collapse of the pound, speculators turned their attention to the U.S. dollar, which (given the economic difficulties the United States was experiencing in the fall of 1931) looked to many to be the next currency in line for devaluation. ・・・To stabilize the dollar, the Fed once again raised interest rates sharply, on the view that currency speculators would be less willing to liquidate dollar assets if they could earn a higher rate of return on them.

1931年9月21日にイギリスが金本位制から離脱すると、次はアメリカの番である(=平価切下げないしは通貨フロート制へ移行するだろう)との見方が強まり、アメリカの通貨当局は市場からの容赦ないドル売り圧力(金との兌換要求)に晒されることになった。多額の金準備の流出に見舞われた連銀は金本位制の維持を最優先して(金流出を食いとどめるために)金利引き上げに乗り出す。金本位制にとどまらんとする連銀の強い意思は平価維持のコミットメントへの信頼を勝ちとり、投機アタックの苦難からアメリカ経済を救い出すことに成功した。その代価として国内経済はより一層不況色を強めていくことになる(こちらのエントリーとも関連するが、平価維持へのコミットメントの信頼が存在してはじめて金本位制は円滑に機能しうる。不運なことに(?)、第一次世界大戦前とは異なり、戦間期にはコミットメントへの信頼が―労働者の立場を代弁する政党が台頭してきたことで、失業率の上昇を許してまで金本位制に固執する利点があるのかという疑問あるいは金本位制への懐疑・反発が無視できないものとなることによって―損なわれていた(After the war, in contrast, both economic views and the political balance of power had shifted in ways that reduced the influence of the gold standard ideology. For example, new labor-dominated political parties were skeptical about the utility of maintaining the gold standard if doing so increased unemployment. Ironically, reduced political and ideological support for the gold standard made it more difficult for central banks to maintain the gold values of their currencies, as speculators understood that the underlying commitment to adhere to the gold standard at all costs had been weakened significantly.)。コミットメントへの信頼なきところに金本位制を採用することの弊害ということになりますかね、この事例は)。

政策の失敗<その3>;1932年7月における(議会の圧力よって採用した買いオペによる金融緩和から)引締め政策への反転

The third policy action highlighted by Friedman and Schwartz occurred in 1932. By the spring of that year, the Depression was well advanced, and Congress began to place considerable pressure on the Federal Reserve to ease monetary policy. The Board was quite reluctant to comply, but in response to the ongoing pressure the Board conducted open-market operations between April and June of 1932 designed to increase the national money supply and thus ease policy. ・・・However, Fed officials remained ambivalent about their policy of monetary expansion. Some viewed the Depression as the necessary purging of financial excesses built up during the 1920s; in this view, slowing the economic collapse by easing monetary policy only delayed the inevitable adjustment. Other officials, noting among other indicators the very low level of nominal interest rates, concluded that monetary policy was in fact already quite easy and that no more should be done.

議会からの金融緩和圧力に抗しきれず、連銀当局は1932年4月から6月にかけて買いオペレーションを実施する。しかしながら、7月に入るや(金融緩和の効果が表れる前に)連銀は再び引締め政策に転換することになる。清算主義的な観念(現在の不況は1920年代の行き過ぎた景気拡張による資源の誤配分が調整される必要不可欠な過程(=非効率的な部門に滞留する資源がヨリ効率的な部門へと移動する過程)であって、安易な金融緩和は(いつかは経験せねばならない)痛みを伴う調整を遅らせるだけに過ぎない)や名目金利と実質金利の混同じゃなくて両者を区別できない初歩的な誤りですかね(金利はこれ以上ないほど低い水準で推移しており(金融は今でも緩和しすぎているほどだ)、金融政策にできることはもはやない;実際にはデフレの進行により(事後的な)実質金利は高止まりしていた)による金融緩和への拒否感情が連銀内部を支配していたためである。

政策の失敗<その4>;1930年代にアメリカ各地で頻発した銀行破産の放置あるいは“最後の貸し手”としての機能(役割)の放棄

The fourth and final policy mistake emphasized by Friedman and Schwartz was the Fed's ongoing neglect of problems in the U.S. banking sector. ・・・The Fed's failure to fulfill its mission was, again, largely the result of the economic theories held by the Federal Reserve leadership. Many Fed officials appeared to subscribe to the infamous "liquidationist" thesis of Treasury Secretary Andrew Mellon, who argued that weeding out "weak" banks was a harsh but necessary prerequisite to the recovery of the banking system. Moreover, most of the failing banks were relatively small and not members of the Federal Reserve System, making their fate of less interest to the policymakers. In the end, Fed officials decided not to intervene in the banking crisis, contributing once again to the precipitous fall in the money supply.

1930年代のアメリカの金融システムは頻発する銀行破産によって大きなショックに見舞われ続けた(上掲の秋元『世界大恐慌』ではElmus Wicker(1996)に依拠して大恐慌期の銀行破産が4つの時期に分けられている。第3期(1931年9~10月)の銀行破産の波は、バーナンキも述べているように(The speculative attack on the dollar also helped to create a panic in the U.S. banking system. Fearing imminent devaluation of the dollar, many foreign and domestic depositors withdrew their funds from U.S. banks in order to convert them into gold or other assets. )上述(政策の失敗<その3>)の投機アタックによって増幅された可能性がある。金本位制の弊害がここにも)。銀行破産による銀行制度への信認の毀損は、預金者による預金引き出し(あるいは現金退蔵)行動を惹起し、マネーサプライ・銀行貸出の低迷の一要因となった。連銀は“最後の貸し手”として行動すべきところにもかかわらず、「貧弱な銀行を破産するに任せることは、痛みを伴うけれども足腰の強い銀行制度を確立するためには避けては通れない道である(非効率的な部門を清算することによって効率的な制度を作り上げる)」との清算主義的な考えから機動的な流動性供給には終始消極的な態度を示し続ける(ということは銀行パニック要因によるマネーサプライ下落の放置=意図せざる金融引締めを容認する)ことになった。

Some important lessons emerge from the story. One lesson is that ideas are critical. The gold standard orthodoxy, the adherence of some Federal Reserve policymakers to the liquidationist thesis, and the incorrect view that low nominal interest rates necessarily signaled monetary ease, all led policymakers astray, with disastrous consequences. We should not underestimate the need for careful research and analysis in guiding policy.

FRBによる政策の失敗は誤った観念によって導かれた、あるいは正当化された(政策の失敗<その1、3、4>を参照。The gold standard orthodoxy=“After 1918, when the war ended, nations around the world made extensive efforts to reconstitute the gold standard, believing that it would be a key element in the return to normal functioning of the international economic system”。金本位制への復帰が第一次世界大戦前の正常な(順調な)国際金融システムの再現を可能にする。「正常に帰れ」(come back to normalcy;ハーディング米大統領)ってことです。バーナンキは本スピーチの中で金本位制自体(コミットメントへの信頼なき金本位制にとどまらず)がGreat Depressionに対して果たした(アメリカにおけるGreat Contractionを世界規模に波及させた(=世界大恐慌にまで発展させた)役割についても論じております)。Great DepressionはDelusionが招いた結果である、つまりは1920年代後半~30年代はAge of DelusionであったがためにGreat Depressionが引き起こされたのだ、と言い得る所以である。

Randall Parker,“An Overview of the Great Depression”も参照のこと(Randall Parker=『大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか』の著者R.E.パーカー)。

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人災としてのGreat Depression

Study of Great Depression shapes Bernanke's views

田中先生が言及されていたウォールストリートジャーナルの記事(たぶん)。

The Depression, he contends, has taught the importance of avoiding both deflation -- that is, generally falling prices -- and inflation. It has also shown the threat that falling asset prices -- such as, potentially, in housing -- and weakened banks can pose. Most important, it shows the damage the Fed can do when it follows wrong-headed ideas.

Great Depressionは自然現象では決してなく、また1920年代の行き過ぎた景気拡大の不可避的な結果でもなく(For decades, many economists and policy makers thought the Depression was the inevitable consequence of excess investment, flawed corporate governance and speculation in the 1920s, culminating in the 1929 stock-market crash)、FRBによる金融政策の失敗によって生じた人災である。誤った観念に囚われた政策当局による引き締め気味の金融政策運営が招いた人為的な災害である。

バーナンキの未完の書“Age of Delusion: How politicians and central bankers created the Great Depression”はおそらくケインズの有名な言葉―「経済学者や政治学者の思想は、それが正しい場合にも間違っている場合にも、一般に考えられているよりもはるかに強力である。事実、世界を支配するものはそれ以外にはないのである。・・・遅かれ早かれ、良かれ悪しかれ危険なものは、既得権益ではなくて思想なのである」(ケインズ著『雇用・利子および貨幣の一般理論』、p384)―を実証するものとしてGreat Depressionを描く、つまりは当時の政策当局者の間に広まっていた(歪んだ)観念に焦点を当てて大不況を論じることを意図したものなのでしょう。15年も待てないという(お急ぎの)方にはMoney, Gold, and the Great Depressionあたりでの議論がその内容を推測するにあたって参考になるんじゃないでしょうか。

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ベルナンケ→バーナンケ→バーナンキ

色々貼り過ぎてわけがわからなくなったんで、バーナンキ自身について知りたいというお方のための些細な情報提供は別立てで。

ネット上で(日本語で)読めるバーナンキの論文“日本の金融政策に関する考察”(pdf)。

田中秀臣の「ノーガード経済論戦」(「バーナンキFRB議長就任と日本のリフレ」)とsvnseedsさんプレゼンツ便利なおまけも参照のこと(追記;田中秀臣著『ベン・バーナンキ 世界経済の新皇帝』も必見)。

日本語に翻訳されてる本は『マクロ経済学〈1〉入門編―マクロ経済理論』『マクロ経済学〈2〉応用編:マクロ経済政策』。そして最後に『リフレと金融政策』 。(追記;『日本の金融危機』(「第6章 自ら機能麻痺に陥った日本の金融政策」)もありますた)

祭りの後に(少しばかり落ち着いた頃に)ででもご覧になっていただければ。

            ______  わっしょい!
          /,/-_-_-_-_-_\ わっしょい!
     ( ( /,, /  バーナンキ \わっしょい!
       (。'。、。@,。,。,。,。,。,。,。,。,。,。,。@ ) )
       ∩ヽヽ∩ヽXXXXXXXX/ ∩
         i||i ∩ i||i:||::::¥_][_¥::::||.i||i
       †人=†††¶┌┐¶††††
  /■/■ /■\/■\]  /■\■\
 (´∀( ´∀( ´∀( ´∀`).□´∀` )Д´)
 ⊂|_| |つ|祭)~| |祭) ̄||祭) ̄|つ ⊂|_((|祭)
  |__〓」 _|=|_ 〓__ノ 〓二ノ〓二ノ) ( / (L
  し' (_(_ し(_) (_)_)し(_)し(_)し

FRB→Apple100% blog→?(次は何処へ)

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バーナンキ! バーナンキ!

バーナンキのFRB議長指名を記念して関連リンク先をご紹介。

Brad DeLong’s Semi-Daily Journal

Bernanke as Inflation Fighter http://delong.typepad.com/sdj/2005/10/bernanke_as_inf.html バーナンキがインフレ許容的であるというのは全くの誤解である。バーナンキは政権の言いなりであり、財政赤字の拡張を原因とするインフレギャップの拡大を放置するだろうという観測は間違っている。彼はグリーンスパン同様に物価安定を目指して粛々と政策運営に従事するはずである。

The Economist on Ben Bernanke http://delong.typepad.com/sdj/2005/10/economistcom.html バーナンキは金融緩和へと偏しすぎている(erring on the expansionist side of monetary policy)=インフレ許容的である、とのThe Economisit誌のバーナンキ評に反論。The Economisit誌の記者は、バーナンキのスピーチ―FRBはアメリカ経済がデフレに陥る前にデフレを食いとどめる力を有している(デフレは金融緩和によって事前に回避可能である)―の意図を誤解(デフレ回避のための金融緩和以上のことを意味していると理解=足元の経済状況いかんにかかわらず金融政策を緩和ぎみに運営するのではないか)しており、バーナンキはインフレ愛好的であるために(=財政赤字の拡大を許容)ブッシュからの指名を勝ち得たのである、との胡散臭い噂に振り回されているだけである。

The Press's Definitive Word on Ben Bernanke http://delong.typepad.com/sdj/2005/10/the_presss_defi.html Ben BernankeのFRB議長指名はHarriet Miersの連邦最高裁判所判事の候補者指名とは正反対の、驚くべきほどまっとうな選択である。

Marginal Revolution; 

Ben Bernanke http://www.marginalrevolution.com/marginalrevolution/2005/10/ben_bernanke.html 中央銀行総裁が備えるべき資質(経済データやマクロ経済への知識に精通しているか、外国やウォールストリートから信用を勝ち得ているか・・・etc)をバーナンキが有しているかどうかを採点。結果は・・・上々といったところか(今後の仕事ぶりを見てみないことには結論を下せないってところもありますかね)。

Ben Bernanke, economist http://www.marginalrevolution.com/marginalrevolution/2005/10/ben_bernanke_ec.html バーナンキの学者としての業績の簡単な紹介。バーナンキの経済学への貢献として、irreversible investment(不可逆的投資)の理論/金融政策のトランスミッションメカニズムとしてのクレジット・チャネルの重要性を提唱したこと/インフレーション・ターゲティング研究/大恐慌(Great Depression)研究/グローバル貯蓄過剰論(The global savings glut)、の計5つの業績を挙げる。

EconLog;                     

Bernanke's Nomination http://econlog.econlib.org/archives/2005/10/bernankes_nomin.html バーナンキは(リバタリアンにとっても)中央銀行の長としてこれ以上望み得ないほど最高(適任)の人物である。歴史上何度も繰り返されてきた金融政策の失敗(とその結果としての景気の乱高下)を前にして、私(Caplan)は(リバタリアンの立場から)フリーバンキング論を主張してきたけれども、バーナンキはインフレターゲットを設定することによって(政策意図を明確化することで)金融政策の先行きに関する不確実性を可能な限り除去し、その結果としてインフレ率の低位安定を実現させ、もって中央銀行が経済の撹乱要因となることを避けようと努めてきた。多くの点で意見の違いはあろうが、バーナンキを(かつての教師への配慮という理由からではなくして)賞賛するのはそのためである。

Econbrowser;

Ben Bernanke: new Fed chair http://www.econbrowser.com/archives/2005/10/ben_bernanke_ne.html バーナンキが次期FRB議長に選任されたということは大変喜ばしいことだ。バーナンキはFedの政策研究―Fedが大不況(the Great Depression)や戦後の景気循環に及ぼした影響について―を通じてアカデミックの世界に多大なる貢献をしてきた。バーナンキ新体制のFRBに対してもこれまで同様学者しての特権―金融政策を好き勝手に、けちょんけちょんに貶す=批判する―を振り回すことになるだろうけれども、批判をぶつけるに際してバーナンキの業績(=上記のアカデミックな貢献)・人柄に対する敬意は忘れないつもりである。

New Economist;

Ben Bernanke to replace Greenspan as Fed Governor http://neweconomist.blogs.com/new_economist/2005/10/ben_bernanke_to.html ついにホワイトハウスにおいて良識が勝つときがきた。これまでのホワイトハウスの政治的任命職に関する判断には疑問符がつくものばかりであったけれども、今回次期FRB議長としてバーナンキが指名されたのである(注;記事は正式な指名前に書かれたもの。よって、バーナンキ指名の可能性が濃厚になってきた、とするのが正しい)。バーナンキはグリーンスパンの後任候補の最右翼と目されてきており(経済学者としてだけではなく、FRB理事として/CEA委員長として実務の世界でも実績を積み上げてきたことの結果でもある)、グリーンスパンとは違って党派的色合いの薄い(またインフレターゲティングの導入に積極的な)人物である(FRB議長として誰もが納得する指名だろう)。今後の活躍に是非とも期待したいところだ。

Bernanke round-up http://neweconomist.blogs.com/new_economist/2005/10/bernanke_media_.html バーナンキ指名に関する識者・各種メディアの意見を紹介。〔好意的な見解;Ben Bernanke Has a Lot Going for Him to Make It(John M. Berry)〕バーナンキはFRB議長として幾分か有利な(望ましい)立場に置かれている。かつてFRB理事を務めていたことから、(1)FOMCの他のメンバーの考えについてある程度の理解を有していること、(2)FRB議長としてFOMCメンバー間の意見の一致をどのようにして図るか、その(グリーンスパンによる)手際を間近で観察する機会が得られたこと。FOMCメンバーとの間に政策目標に関する意見の一致―インフレをコントロール下に置くこと(low and stable inflationの実現を最優先課題とすること)、また安定した低インフレは雇用の最大化(maximizing sustainable employment)にも貢献すること―が存在すること。アメリカ経済の現状は決して予断を許さない状況ではあるけれども、(就任わずか2ヵ月後に株価大暴落=「ブラックマンデー」に対処せねばならなかった)グリーンスパンに比べればバーナンキにはFRB議長の仕事に慣れるだけの時間的余裕があること、等々。〔否定的な見解;Transparency Wins, Fed Leaks Lose, With Bernanke(Caroline Baum)〕グリーンスパンと比較して、学者としての経験からバーナンキは経済モデルに頼りがちである(モデル思考に親しみやすい)。モデル思考が問題だということの意味は、現実の経済はモデルが予測するようにはいかないということ/モデルから導かれる予測が結果として誤りであったということでは必ずしもない。モデルに過度に依存することが耐久期間を過ぎたモデルにいつまでもしがみついてしまう危険性を孕んでいるがゆえに問題なのである。

Economist's View;

Nomination for Next Fed Chair: Ben Bernanke  http://economistsview.typepad.com/economistsview/2005/10/nomination_for_.html バーナンキとグリーンスパンの違いは何だろうか? バーナンキはグリーンスパンのように政治的な議論には口を突っ込まないだろうし(バーナンキが共和党支持者だということは、多くの仕事をともにした同僚(ガートラー、ブラインダー)でさえも長らくの間全く気付かなかった。バーナンキは党派的な意見を主張するのを避ける傾向がある;中央銀行総裁としては望ましい性質ではある)、グリーンスパンが嫌ったインフレーション・ターゲティングの導入に対して(=政策目標をヨリ明確にするために、また更なる透明性の向上のために)ヨリ積極的であるだろう。

Will the Bernanke Fed Retain Its Inflation Fighting Credentials? http://economistsview.typepad.com/economistsview/2005/10/will_the_bernan.html バーナンキはグリーンスパンほどにはインフレ(あるいはインフレの加速)の阻止にコミットしないのではないかとの疑念に対して、バーナンキ自身のスピーチ“A Perspective on Inflation Targeting”を引用して反論。1970年代のGreat Inflationは突発的な石油価格の高騰によって引き起こされた(不可抗力の)現象ではなく、過度の金融緩和とその結果としてのFedのインフレをコントロールする能力(あるいは意思)への(国民からの)信認の崩壊によって引き起こされた(人為的な)惨事であった。Fedのインフレ・ファイターとしての信認を回復するために(ヴォルカー時代のディスインフレ過程において)アメリカ経済が払わざるを得なかった犠牲も併せて鑑みるに、中央銀行のインフレ阻止へのコミット(とそれを裏付ける行動)の重要性は論じるまでもないだろう。“in conducting stabilization policy, the central bank must also maintain a strong commitment to keeping inflation--and, hence, public expectations of inflation--firmly under control”(景気安定化政策としての金融政策を効果的なものたらしめんとするにあたっては、インフレーションを(そして民間経済主体のインフレ期待を)低位安定させんとする中央銀行の力強いコミットメントが必要不可欠になってくる)。

Bernanke on Interest Rates, Monetary Aggregates, and How Monetary Policy Impacts the Economy http://economistsview.typepad.com/economistsview/2005/10/bernanke_on_int.html

Ben Bernanke: We Cannot Practice Safe Popping http://economistsview.typepad.com/economistsview/2005/10/ben_bernanke_we.html

Should FOMC Meetings be Televised? http://economistsview.typepad.com/economistsview/2005/10/should_fomc_mee.html FOMCでの政策決定過程をヨリ透明化するための手段としてテレビ中継を導入(FOMCでの議論の様子をテレビで放送)すべきかどうかについてバーナンキとウィリアム・プールの所説を紹介。ヨリ多くの情報が提供されることによってその分市場によるFedの政策意図への理解が深まるとは単純にはいえず、逆に余計な情報や誤解を招きかねない(解釈の余地のある)表現が画面を通じて直に伝わることで市場の判断を歪めてしまう恐れなしとはしない(バーナンキ)/テレビ中継によってFOMCのconfidentiality(=秘密性、秘匿性)が損なわれるために、匿名を条件として個別企業から提供される情報がもはや得られなくなってしまい(←その結果として経済予測の精度が損なわれるかもしれない)、また政策委員がテレビ(の奥にいる聴衆)を意識してしまうがために(テレビの存在がなければ心置きなく率直に議論できるはずであった)物議をかもしかねない話題(失業率の上昇を招きかねない政策決定etc)を議論の俎上に乗せることを厭うようになりかねない(プール)、として両者ともにFOMCへのテレビ中継の導入には否定的。ただし、プールはテレビ中継によって提供される情報が(視聴者の誤解や無理解が原因となって)意思決定の撹乱要因となりかねない(=バーナンキの見解)との議論には組しない(テレビを通じてFOMCの様子をチェックするような人間は専門家だけであり、彼らが政策委員の一挙一動に振り回されるようなことはないだろう)。

Will Bernanke Speak Up? http://economistsview.typepad.com/economistsview/2005/10/will_bernanke_s.html FRB議長は国民経済全体の奉仕者であるべきであって、個人的な考えを前面に押し出し、またそれ(=党派的な個人的見解)を具現するためにその職業的立場を利用するべきではない。バーナンキが共和党員であるとか財政赤字削減論者であるとかいった党派的な立ち位置はFRB議長としての彼の活動とは一切関係のないことだ。FRB議長が財政赤字や政府債務の水準に関して発言することが許されるのは、財政の状況がマクロ経済、ひいては金融政策運営に影響を及ぼす可能性があるときに限定されるべきであるし、バーナンキもその点は(彼の過去の発言から判断して)十分にわきまえているだろう。

Greg Mankiw: Questions Bernanke Must Be Asking Himself http://economistsview.typepad.com/economistsview/2005/10/greg_mankiw_que.html マンキューによるバーナンキ宛ての3つの質問―FRB議長としてバーナンキが自問自答すべきとマンキューが考える質問―。①如何にしてインフレーション・ターゲティングの導入に道を開くことができるであろうか(How can I advance inflation targeting? )→グリーンスパンは目標とすべきインフレ率(あるいはそのレンジ)を数字として明確に掲げることには反対の意向を示したけれども(そして実際に特定のインフレ率の達成にコミットすることはなかったけれども)、暗黙ながらも1~2%のインフレ率を目標として政策運営に従事していた節がある。インフレーション・ターゲティングの導入は金融政策運営の変更(ないしレジームの転換)というよりも市場とのコミュニケーション手法の変更(グリーンスパン流の“covert inflation targeting”からexplicit inflation targetingへ/目標とするインフレ率をグリーンスパン一個人の頭の中から万人の眼前に曝け出す)として捉えられるべきであり、実際の政策運営(やFOMCの声明等)を通じて中長期的なインフレ予測(ならびにFOMCメンバーの想定するインフレ率の目標)を市場に伝達することで徐々にインタゲ導入の足場が固められていくことであろう(大々的にインタゲ導入を宣言する必要はないかもしれない)。②FRB議長としてどの範囲の議論にまで口出しすべきであろうか(How broadly should I offer opinions?)→ FRBの政治的な(制度的な)独立性(←議会によって付与されたものであり、また議会によって容易に剥奪されるものである)を危険な目に晒さないためにも、FRB議長としては金融政策や金融システムの動向に関連する議論、経済学者の間に広範なコンセンサスが存在する議論等党派的・感情的な対立を引き起こす蓋然性の少ない議論への参加に限定すべきである。③FRB議長としての私個人に一般の人々からどれだけの注目を集めるべきであろうか(How high a profile should I adopt?)→金融政策はFRB議長一人の個人プレーで決定されるべき性格のものではなくて、FRBという制度(そして背後のいる多くの専門家)によって実施・運営されるのものである(し、そうあるべきだ)。バーナンキはFRB議長として退屈な、何の面白みのない人間を演じ(大衆から注目を集めるような派手な行動は慎むべきである)、大衆の注目を個人(例.グリーンスパン前議長)から制度としてのFRBへ差し向けるよう(決して目立つことなく)励むべきだ。

詳細はGregory Mankiw、“A Letter to Ben Bernanke(pdf)”を参照のこと(体裁は違えど内容はほぼ同じ)。

The Greenspan Succession(by P.Krugman); http://www.pkarchive.org/column/012505.html(いちご経済板にてcloudyさんがご紹介されておられました。今回の議長指名をうけての記事じゃありませんが)

Bernanke and the Bubble(by P.Krugman);http://donkeyodtoo.blogspot.com/2005/10/bernanke-and-bubble-by-paul-krugman.htmlgachapinfanさんによる邦訳と照らし合わせてみるにどうやら原文のようです。なんとなく後ろめたいけれども・・・)

svnseeds’ ghoti!(svnseedsさん。バーナンキがFRB理事時代に行ったスピーチへのリンクをまとめておられます。一番のお奨めです);http://d.hatena.ne.jp/svnseeds/20051025

おまけ(祭りの様子を冷静に分析されている方々):

Baatarismの溜息通信(Baatarismさん);  http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20051025

Apple100% blog(fhvbwxさん。「バーナンキ祭り」の樹形図);http://d.hatena.ne.jp/fhvbwx/20051025/p4

                  バーナンキ!!
     \\  ゑーぢゃなゐか! ! //
 +   + \\ ゑーぢゃなゐか! !/+
                            +
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      ( ´∀`∩(´∀`∩)( ´∀`)
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       ヽ  ( ノ ( ヽノ  ) ) )
       (_)し' し(_) (_)_)

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2006年3月17日 (金)

石油高の経済学

Econbrowser(by James D. Hamilton)のエントリー “Oil shocks and personal saving”にインスパイヤーされて。

John Fernald, Bharat Trehan、“Why Hasn’t the Jump in Oil Prices Led to a Recession?

James D. Hamilton、“Oil and the Macroeconomy(pdf)”

Robert B. Barsky, Lutz Kilian,“Oil and the Macroeconomy Since the 1970s(pdf)”

Olivier Blanchard,“Comments on "Do We Really Know that Oil Caused the Great Stagnation? A Monetary Alternative"(by Robert Barsky and Lutz Kilian)(pdf)”

Donald W. Jones, Paul N. Leiby, Inja K. Paik,“Oil Price Shocks and the Macroeconomy: What has been learned since 1996(pdf)”

石油価格の上昇それ自体が問題(=不況をもたらす)なのではなくて、石油価格上昇に反応して金融引締め政策に乗り出したことこそが不況を招いた元凶なのだ、と論じているらしい(Fernald/Trehan論文に参考文献として挙げられている)Bernanke他論文をネット上で検索してみたら、・・・これがまた見つかっちゃったんですよね。今日は朝から縁起がいいね~。

Ben Bernanke, Mark Gertler, Mark Watson、“Systematic Monetary Policy and the Effects of Oil Price Shocks(pdf)”

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